ワシントン州のワイン

前回はオレゴンワインについて書かせていただきましたが、今回はオレゴン州の北にあるワシントン州のワインについてお話させていただきます。
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ワシントンワインとは

「ワシントンワイン」というと“ホワイトハウスの近くでワイン造ってるんですか?”という話によくなりますが、ワインにおけるワシントンはワシントンDCではなく、ワシントン州です。アメリカ西海岸最北の州で、シアトルがもっとも有名な都市ですが、北はカナダと国境を接しているのでかなり緯度が高い位置にあります。南のオレゴン州との州境を流れるコロンビア川が北緯45度で、フランスでいうとリヨンやボルドーのあたりになります。日本だと稚内や利尻島のあたりになるのでかなり高緯度なんですね。

シアトルは年間降雨量が約950ミリと、そこそこの雨量があるのですが、沿岸部から内陸に入ったところを南北に走るカスケード山脈のさらに東側には年間降雨量わずか200ミリ程度の超乾燥地帯が広がっています。ワシントンのワイン生産地はこの超乾燥地帯に広がっており、砂漠のような土地に忽然と現れる葡萄畑はある種異様な光景に感じられます。
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ワシントン州のカスケード山脈の東側に広がるコロンビア・ヴァレーは2-3000万年前におきた火山活動で溶出したマグマが固まった玄武岩の広大な溶岩台地ですが、15,000年前の氷河期の終わりに繰り返し引き起こされた大規模な連続氷河湖決壊洪水(ミズーラ・フラッド)でもたらされたシルト・ロームがヴァレーの底に厚く、また斜面の標高が高くなるほど薄く堆積しました。
マウントレーニア
この大洪水は水面が標高約300メートルにまで達するほどの規模で、世界全体の河川の総流量の10倍に及ぶ膨大な水量となり、2000万立方メートル/秒という途方のない量の水が一気に流れ出たと言われています。このような大洪水が50~60回以上起きたとされ、これによりシルト・ロームや玄武岩の大地には存在しない花崗岩がもたらされ、長い年月による風化と強風により黄土の一部となっています。

そのため、ヴァレーの底や標高が低い斜面では玄武岩+シルト・ローム+黄土という土壌形成となり、このような土壌のブドウを使用したワインはリッチでふくよかな味わいとなります。また300メートル以上の標高の高い斜面では玄武岩+黄土という土壌形成になり、ミネラル感のある引き締まった味わいになる傾向があります。
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また、200ミリという極度に少ない降雨量では、何もしないでおくと当然ブドウの樹は枯れてしまいます。そこでワシントン州のブドウ畑はほぼすべての畑に灌漑設備が導入されていますが、スプリンクラーのようなものではなく、ドリップイリゲーションといわれる灌漑設備を使用しています。これはブドウの樹にホースのような管を沿わせて、管の穴を開けた部分から必要最低限の水分だけを供給するというシステムで、スプリンクラーよりも水分供給量が少なく、適度な水分ストレスをブドウの樹に与えることができます。これによりひじょうに凝縮したブドウを栽培することができますし、肥料などを水で薄めて直接ブドウの樹に与えることも可能です。また、スプリンクラー式の灌漑設備を見かけることもありますが、これはほとんどの場合、野菜の栽培などに使われるようです。
ドリップイリゲーション
ドリップイリゲーション

また夏季の日照時間は17時間を超え、豊富な日照量のもと、ブドウはよく熟しますが、夜間は急激に冷え込むために酸味がしっかり保たれます。昼夜の寒暖差が20度以上になることも珍しくありません。果実味と酸味のバランスが高いレベルで保たれているのもワシントンワインの特徴といえるでしょう。
スプリンクラー

フィロキセラの影響を受けていなブドウ

さらにワシントン州のブドウ畑はほとんど自根のブドウが植えられています。フランスなどのヨーロッパ諸国はもちろん、ヴィティス・ヴィニフェラといわれるいわゆるヨーロッパ系のブドウ品種を栽培している産地はほぼ間違いなくアメリカ系の台木に接ぎ木してブドウを栽培しています。これはフィロキセラというブドウの樹を枯らす害虫対策のためで、ヨーロッパ系のブドウ品種はフィロキセラに耐性がなく、フランスなどではかつてブドウ畑が壊滅したという苦々しい経験があるからです。
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しかし、ワシントン州の冬は厳しく、ブドウの樹が凍害で枯れてしまうこともしばしばあります。フィロキセラもこのような厳しい環境で越冬できず、また極度に乾燥したワシントン州では繁殖することができません。自根で栽培されているブドウが多いという世界でも稀な地域なのはそのためです。一部他の産地のように接ぎ木したブドウの樹を見かけますが、これはフィロキセラ対策というよりも台木によって樹勢をコントロールするといった品質上の理由によるところが大きいようです。
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まだまだワシントンワインはカリフォルニアワインに比べ見かける機会も少ない地域のワインですが、ぜひ一度お試しになってみてください。新しいワインの世界が広がるかもしれませんよ。

この記事を書いた人

岡田知
岡田知
2001年より京都の老舗ワイン専門店「ワイングロッサリー」の直営ワインバーでシェフソムリエとして12年間勤務
2013年に地元芦屋でワインとチーズの専門店「ル・プティ・コントワール」をオープン。ワインとチーズのすばらしさを
芦屋の地から発信しています。お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください
JSA認定シニアソムリエ
WSET®International Higher Certificate
ドイツワインケナー
ル・プティ・コントワール
http://www.le-petit-comptoir.net/
https://www.facebook.com/le.petit.comptoir.ashiya
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岡田知

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2001年より京都の老舗ワイン専門店「ワイングロッサリー」の直営ワインバーでシェフソムリエとして12年間勤務
2013年に地元芦屋でワインとチーズの専門店「ル・プティ・コントワール」をオープン。ワインとチーズのすばらしさを
芦屋の地から発信しています。お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください
JSA認定シニアソムリエ
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